鬼滅の刃 無限列車編
じつは少し前に滑り込みでみていた無限列車編。めっちゃめっちゃよかった。みんなが煉獄さん煉獄さんってなる理由がわかりました。これは煉獄のアニキィ!になっちまうわ!!
※アニメしかみてない妄想猗窩座独白↓
苦々しい感情の毒が体中を巡っている。
鬼にとって、太陽の光というのはこの世で最も恐れるべきものだった。俺はその輝きをいつも堕としたいとおもっていた。陽に背を向け遁走しながら、どうしようもない不条理な世界のしくみに、はらわたが煮えくり返っている。歯噛みする。
俺は杏寿郎を置いてきてしまった。
置いてきてしまったのだ、あの憎き陽の元へ。
最後にみせた眼差しは、俺を焼き尽くさんとする陽の焔に似ていた。俺はあの時、たしかに慄いた。差し迫る日の入りの恐怖ではなく、刺し違えてでも己の責務を果たそうとする目の前の男の執念に身を焼かれていた。
ちかちかと光の残滓がちらついて呼吸が乱れ、後悔が荒波のように押し寄せてくる。
あの頭を鷲掴みにして、そのまま首ごと引き千切っていればよかった。そうすればゆらめく炎の髪をこの手に抱えていたはずだった。だが俺は首すら持ち帰ることも出来ず杏寿郎のすべてを置いてきてしまった。
鬼にはなにも残らない。
名も、肉も、骨さえも。太陽はすべてを焼き尽くす煉獄の炎にひとしい。その光の中に、杏寿郎を置いてきてしまった。
だから、彼の屍は骨となり、名も墓に残るだろう。口々に彼の死を悼み、賞賛を浴びせるのだ。杏寿郎の強さと対峙したこともない弱者が。だから俺はいつも強い柱を屠ってきたときのように、殺した人間の首を飲み、跡形もなく腹の中の闇へと堕とすべきだった。鬼にならないのならば、せめて鬼のように、死体すら残らない形で殺すべきだった。それが鬼なりの敬意であり、人としての最大の辱めになるはずだった。それができないのがなによりも口惜しかった。
陽のあたらないところへようやく飛び込み、呼吸を整える。ぐちゃぐちゃに塗りつぶされた思考を拾い集めてゆく。
息を吸って吐くたびに何度も赤い瞳が脳裏に浮かんでは、散っていった。太陽が昇る度、消滅の恐怖とともに突き刺してくるだろう灼熱のひかり。忌避すべきものなのに、そのものの持つ強さ自体に惹かれている。
俺は儘ならぬため息をついた。あれは惚れ惚れとするほどうつくしい陽色の殺意だった。