model9000のブログ

更新履歴と雑記

罪の声

35年の時を経て蘇る宿命。

さっくりいうとグリコ・森永事件です。キツネ目の男、これ小学生の時えらいみたなぁ。実際にあった事件がどんどんフィクションに置き換わっていく感じ、きっと何十年か先には今起こっているいろいろな体感も、言葉と映像に少しずつ置き換わっていくんだろうな。

 

さて映画の話。

冒頭で声の秘密に気づいてしまう入り方からしてぞくぞくしてしまいました。喋っているだけでめちゃくちゃ面白いし取材のテンポたまらんな~~~~!!前半は結構取材取材ハイまた取材!みたいな感じでシーンがぽんぽん飛んでいくので、縁取るように浮かび上がってくる事件の概要が気持ちよかったな。

あと小栗旬演じるざっくばらんな性格の記者・阿久津と、星野源演じるテーラーの曽根俊也のバディ感もたまらんです。(原作ではバディではないらしい?)からの今作のバディである二人が出会うシーンはやっぱりどきどきした…!

生真面目な曽根の「3割引き」のしたたかなシーンで阿久津がニヤリとするところも、性格の違いが出る車の中のボタンのシーンも、そのあとの夕陽の中のシーンも格別ですね。

あ、そういえば映画に一瞬だけ「カサブランカ」うつったよね。有名な「君の瞳に乾杯」は意訳らしい。こういう後世まで語り継がれ、映画そのものの魅力まで増すことができる映画翻訳ってすごい仕事だなとおもったし、やっぱりそういう夢や可能性が潰されるところをみるのは苦しいな……。

基本的にドンパチやる派手な映画ではないし、人の心、運命の皮肉、かけちがったボタンのようにぐさぐさ刺さる映画だけど、観れてよかったな。

 

 

「どうですか?」と曽根は柔らかく問いかけた。声色は優しいが、仕事に向き合うときの彼の目は強い光を湛えている。「いいですね」と阿久津は素直に感想を述べた。既製されたものに囲まれた社会で、呼吸のようにぴったりと身体に馴染むものがあるということは新鮮だった。

「腕、曲げてください」

「結構かっちりして見えるのに、思ったより動きやすい」

「阿久津さん、アクティブですから。お忙しくされてはるんですか?」

「いいようにこき使われてます」跪いて腕の具合を確かめる曽根のつむじをみながら、阿久津は忙しさをぼやいた。同調しながら軽やかに曽根は立ち上がってスタイルを確かめ、出来栄えに満足すると、冗談っぽく「あんな風にボタン取っちゃ嫌ですからね」とたしなめた。それに阿久津はニヤニヤと悪戯の見つかったような顔で「もうあんなこと、できませんね」と笑う。

「作ってくれている人の顔を知ったら、知る前には戻れない」

「……そうですね」

 知っている者だけがわかる含みのある言葉が交わされる。それも一瞬で、からっとした笑みにかわった。

「大事に着ます」

「そうしてください。このスーツがこれから貴方の相棒になってくれます」

「それは心強い。3割引きのクーポンも作っておいてくれると助かります。口の堅い人たちに紹介しておきますから」

「勘弁してください」曽根も笑って「今後ともご贔屓に」と言った。